膝前部痛(anterior knee pain=AKP)は、疾患名ではなく、膝前面に疼痛を訴える症候名です。
疼痛原因が明らかなものと、明らかでないものに分類されます。
前者は、膝蓋骨不安定症、タナ障害、有痛性分裂膝蓋骨、などがあります。
後者は、膝前部痛症候群(anterior knee pain syndrome=AKPS)といい、膝蓋大腿関節痛症候群(patellofemoral pain sydrome)と呼ばれることもあります。
AKPSは、若年期から青年期に多くみられ、初発年齢は13歳頃です。
女子スポーツ選手に多いです。
主訴は、膝前面部の重だるく、うずくような痛みです。
疼痛部位は、膝蓋骨周囲、膝蓋骨の内側で大腿脛骨関節より近位に訴えます。
圧痛点で判別可能です。
AKPSは、さまざまな病態を含んでいるため、それぞれの症例の要因を十分臨床推論することが大切ですが、AKPSは、端的に言って、膝蓋骨のtracking障害(膝蓋骨が異常な動的アライメントを呈する状態)といえますので、個体要因は、筋機能不全、と、マルアライメント、の二つに整理することができます。
よって、治療方針としては、筋機能の正常化、と、動的アライメントの調整による、膝蓋骨のnormal Tracking(正常な動的アライメント)の獲得です。
膝前面では、大腿直筋、中間広筋、内側広筋、外側広筋、腸脛靭帯、内側膝蓋支帯、外側膝蓋支帯、膝蓋下脂肪体、などの組織が、膝蓋骨の運動を制御しています。
ですので、これらの組織の膝蓋骨に対する不均衡な応力が、膝蓋骨の正常な運動を阻害し、結果、AKPSを発症させる、と考えることができます。
大腿脛骨関節の動きの不具合(screw home movementの不具合など)も、膝蓋骨の正常な運動を阻害する要因となりえます。
このように、局所付近の詳細な観察と触診が必要になると同時に、もっと大局の全身アライメント、特に、膝関節の上下の関節である、股関節、と、足関節、の動的アライメントを評価することは必須となります。
局所の動きの不具合が、遠く離れた部位の動きの不具合と連動していることは、よく見られることだからです。